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  ハタ科魚類のみならず魚類の多くは模様変化を起こす。模様変化は様々な局面で引き起こされており,模様のパターン,体色の明化あるいは暗化などを使い分けることが観察から分かった。このことから模様には魚類社会上,重要な役割を果たしていると推測される。

 模様を研究する上で重要になるのは色素細胞である色素胞の観察である。色素胞は1)光吸収性色素胞,2)光反射性色素胞の2つに分けられる。

 1)光吸収性色素胞はこれまでに4色見つかっており,黒,赤,黄,青,色素胞である。それぞれの色素胞には色素顆粒が含まれており(表1),色素胞内にはアクチンフィラメントや微小管が存在しており,色素顆粒が微小管上を移動することで色素胞が拡散(中心から外側)したり,凝集(外側から中心)したように見えるのである。また色素顆粒の拡散にはキネシン,凝集にはダイニンが担うと考えられている。

 2)光反射性色素胞は白色素胞,虹色素胞の2種類あり,白色細胞内には円形の光反射性細胞小器官が存在しており,光吸収性色素胞と同様,凝集,拡散反応を示す。また白色に見えるのは光がミー散乱によって乱反射されているためである。虹色素胞はグアニン主体の六角形の小板状の結晶が無数に存在しており,薄膜干渉現象によって光が反射されることで色がついたように見える。

  色素胞は鱗と真皮の中間に存在しているが,鱗をピンセットで採取すると,癒着した色素胞の層を容易に採取することができる。光吸収性色素胞の観察には透過型顕微鏡で良いが,白色素胞の観察には落照射型の顕微鏡が適している。


 採取した色素胞は直ちにプレパラートにのせ,スライドガラスをかけ観察する。この時,リンガー液を滴下することで黒色素胞は拡散する。一方,ノルアドレナリン(1.0×10^-6 mol/L)溶液を滴下することで黒色素胞の凝集,白色素胞の拡散を観察できる。

参考文献

・林 茂軍(1998). 養殖マダイ色素顆粒のカリウム凝集に対する温度の相乗効果. Nippon Suisan Gakkaishi.vol.64, No.2, p280-285.

・大島 範子(2003). 硬骨魚類における色素胞とその運動制御と仕組み. 比較生理生化学. vol.20, No3, p131-139.



 

 Lernaeenicus ramosusはハタ類などに外部寄生する甲殻類の1種で,国内では1954年に三重県と和歌山県で初めて報告された。本種は枝分かれした各部を備えた頭部を宿主の表皮から皮下に没入させて寄生する(Shiino,1958)。


本種はハタ科魚類の体側面や腹部に対し,1から複数匹が寄生する。本種の寄生による宿主のへい死は少ないが寄生の数によっては宿主の行動を妨げ,あるいは細菌等の二次感染により衰弱死を招くことがある(土居,2008)。


参考文献

・Shiino,S. M.(1958)Copepods parasitic on Japanese fishes. 17.Lernaeidae. Rep. Fac. Fish.,Mie Univ.,3,75-100.

・土居 敏男(2008). Lernaeenicus ramosus (橈脚亜綱,ペンネラ 科)に寄生されたキジハタの組織学的観察 と飼育下で自然治癒した 1 例.Japanese Society for Aquaculture Science. vol.56, No.4, p601-602.


 魚を摂取した時に起こる食中毒の中でシガテラciguaeraと呼ばれる中毒は,強力な神経毒であるシガトキシンが原因で起こり,近年,日本でも多くの話題となっている。


(朝日新聞digital 2016/4/13 より

http://www.asahi.com/articles/ASJ4D7FVHJ4DUTIL05G.html)


 シガテラはカリブ海産の巻貝ciguaに由来し,今では,カリブ海のみならず南北両回帰線に挟まれた熱帯の太平洋で見られる中毒の総称として認められており,南方海域での漁業資源の開発の大きな障害となっている。また,同海域から漁獲されたものであっても中毒を起こす個体と起こさない個体がおり,簡便な試験法は未だないのが現状だ。シガテラは渦鞭毛藻類が生成したシガトキシンを摂取した草食性魚類を経て,多くの肉食性魚類に蓄積される。ハタ科魚類は肉食性魚類にあたり,シガテラの報告例がある(表1)。その中でもバラハタ(Variola albimarginata )を食べ中毒を起こすとドライアイスセンセーションをはじめ様々な症状が現れる(表2)。

参考文献

・安元 健(1972). シガテラ-南方産魚類による食中毒-.化学と生物.vol.10,No.6,p369-375

・寺尾 清(1998). シガテラ魚中毒.山脇学園短期大学紀要.vol.36,p33-78